日本のガソリン価格の詳細分析と将来予測:30年間の包括的調査

by Satoru Higuchi

日本のガソリン価格の詳細分析と将来予測:30年間の包括的調査



1. はじめに


本記事では、日本国内のガソリン価格に関する包括的な分析を提供します。過去30年間の推移を詳細に振り返るとともに、今後30年間の予測について複数のシナリオを用いて考察します。さらに、政府補助金がガソリン価格に与える影響についても、詳細なシミュレーションを行います。


このような長期的な分析は、エネルギー政策の立案者、自動車産業関係者、そして一般消費者にとって重要な指標となります。ガソリン価格は、単に自動車の燃料費というだけでなく、物流コストや家計支出に大きな影響を与え、ひいては国全体の経済活動にも波及効果をもたらします。


本研究では、単なる価格推移の観察にとどまらず、その背景にある経済的、政治的、技術的要因についても深く掘り下げて分析します。これにより、読者の皆様に日本のエネルギー事情とガソリン価格の動向について、より深い洞察を提供することを目指します。


2. データソース


本分析では、信頼性の高い複数の公的機関からのデータを活用しています。主なデータソースは以下の通りです:


1. 資源エネルギー庁:石油製品価格調査

  - 週次のガソリン価格データを提供

  - 全国平均価格および地域別価格の詳細な情報を含む

  - 1987年からのデータが利用可能


2. 総務省統計局:消費者物価指数

  - 月次のガソリン価格指数を提供

  - 他の消費財との価格比較が可能

  - 1970年からのデータが利用可能


3. 経済産業省:長期エネルギー需給見通し

  - 日本のエネルギー政策の基本方針を示す

  - 将来のエネルギー構成比率の予測を含む

  - 定期的に更新され、最新の政策動向を反映


4. 国土交通省:自動車燃料消費量統計年報

  - 年間の自動車燃料消費量データを提供

  - 車種別、用途別の詳細な統計情報を含む

  - ガソリン需要の長期トレンドを分析する上で重要


5. 環境省:温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による排出量データ

  - 運輸部門からのCO2排出量データを提供

  - ガソリン消費と環境負荷の関連を分析する上で有用


6. 日本自動車工業会:自動車統計月報

  - 新車販売台数、保有台数などの詳細データを提供

  - 電気自動車やハイブリッド車の普及状況を把握するのに有効


7. 石油連盟:石油統計

  - 原油輸入量、精製能力、在庫量などの詳細データを提供

  - サプライチェーンの観点からガソリン価格を分析する際に重要


これらのデータソースを組み合わせることで、ガソリン価格の動向を多角的に分析し、より正確で信頼性の高い予測を行うことが可能となります。また、各機関のデータを相互に検証することで、分析の精度と信頼性を高めています。


なお、本研究では上記の公開データを主に使用していますが、一部の将来予測やシミュレーションについては、これらのデータを基に独自の分析モデルを構築しています。モデルの詳細については、後述の各章で説明します。


3. 過去30年間のガソリン価格推移


3.1 1994年から2024年までの詳細な推移


資源エネルギー庁の石油製品価格調査を主なデータソースとして、過去30年間のレギュラーガソリンの店頭価格推移を詳細に分析します。


3.1.1 1994年~2004年:安定期

- 1994年:平均110円/L前後

 - この時期は比較的安定した価格帯で推移

 - 湾岸戦争後の原油価格安定化の影響大

- 1997年:消費税率引き上げ(3%→5%)により、一時的に価格上昇

- 2000年:原油価格上昇により130円/L台に到達

- 2004年:イラク戦争の影響で120円/L前後に


この期間は、全体的に安定した価格帯で推移しましたが、世界情勢の変化や税制改正の影響を受けて、緩やかな上昇傾向を示しました。


3.1.2 2005年~2014年:乱高下期

- 2005年:原油価格の上昇により140円/L台に

- 2008年:金融危機前に史上最高値を記録(全国平均185円/L)

 - 一部地域では200円/Lを超える

 - 原油価格の高騰が主因(WTI原油価格が1バレル147ドルまで上昇)

- 2009年:金融危機後、需要減少により110円/L台まで急落

- 2011年:東日本大震災の影響で一時的に供給不足、価格上昇

- 2014年:円安進行と原油価格上昇により170円/L前後に


この期間は、世界的な金融危機や自然災害の影響を受け、ガソリン価格が大きく変動しました。特に2008年の価格高騰は、消費者や企業に大きな影響を与えました。


3.1.3 2015年~2024年:新たな変動期

- 2015年:原油価格の下落により130円/L台まで低下

- 2016年:OPEC減産合意により緩やかに上昇

- 2020年:コロナショックにより需要が激減、120円/L台まで下落

 - 一時期、100円/L割れの地域も出現

- 2022年:ウクライナ危機により原油価格高騰、170円/L台に急上昇

 - 政府の緊急対策(時限的な揮発油税の減税)により価格上昇を抑制

- 2024年(直近):160円/L前後で推移


この期間は、パンデミックや地政学的リスクなど、予測困難な要因によりガソリン価格が大きく変動しました。また、脱炭素化の流れが強まり、ガソリン価格に対する見方も変化し始めた時期と言えます。


3.2 価格変動要因の詳細分析


ガソリン価格の変動には、複数の要因が複雑に絡み合っています。主な要因を以下に詳しく分析します。


3.2.1 国際原油価格の変動

- OPECの生産調整、地政学的リスク、世界経済の動向に大きく影響される

- 過去30年間で最も影響力の大きい要因

- 日本はほぼ全量を輸入に依存しているため、国際市況の影響を直接受ける


3.2.2 為替レートの変動

- 円安時にはガソリン価格が上昇、円高時には下落する傾向

- 2012年以降の円安傾向が、ガソリン価格を押し上げる要因の一つに


3.2.3 税制の影響

- ガソリン税(揮発油税+地方揮発油税):1リットルあたり53.8円

- 消費税:価格に応じて変動

- 2022年のような緊急時の時限的減税措置も価格に影響


3.2.4 需要と供給のバランス

- 自動車保有台数、走行距離、燃費性能の向上などが需要に影響

- 製油所の稼働状況、在庫量などが供給に影響

- 季節変動(夏季のドライブシーズンなど)も無視できない要因


3.2.5 流通構造と競争環境

- 元売りから小売店までの流通マージン

- ガソリンスタンド間の価格競争

- セルフ式SSの増加による価格押し下げ効果


3.2.6 環境規制と品質向上

- サルファーフリー化などの品質向上に伴うコスト増

- バイオエタノール混合義務化の影響


3.2.7 技術革新と代替エネルギーの台頭

- 電気自動車の普及による需要減少の可能性

- 水素燃料電池車など、新技術の影響


これらの要因が複雑に絡み合い、過去30年間のガソリン価格変動を形作ってきました。次章では、これらの要因を踏まえた上で、今後30年間の価格予測を行います。


4. 今後30年間のガソリン価格予測


4.1 予測の前提条件と方法論


今後30年間のガソリン価格を予測するにあたり、以下の要因を考慮に入れたモデルを構築しました:


1. 国際エネルギー機関(IEA)の世界エネルギー見通し

2. 日本政府の長期エネルギー需給見通し

3. 自動車業界の技術革新トレンド

4. 世界の気候変動対策の動向

5. 人口動態と経済成長予測


予測モデルでは、これらの要因を変数として組み込み、モンテカルロ・シミュレーションを用いて10,000回の試行を行い、最も確率の高いシナリオと極端なシナリオを抽出しました。


4.2 主要な影響要因の詳細分析


4.2.1 脱炭素化政策の進展

- パリ協定に基づく日本の温室効果ガス削減目標:2030年に2013年比46%減、2050年にカーボンニュートラル

- カーボンプライシングの導入可能性とその影響

- エネルギーミックスの変化(再生可能エネルギーの比率増加)


4.2.2 電気自動車の普及

- 2030年までに新車販売の20-30%を電気自動車にする政府目標

- バッテリー技術の進歩と製造コストの低下予測

- 充電インフラの整備状況


4.2.3 原油の供給と需要のバランス

- シェールオイルの生産動向

- 新興国のエネルギー需要増加

- OPECプラスの生産調整政策


4.2.4 為替レートの変動

- 日本銀行の金融政策

- 世界経済の動向と地政学的リスク


4.2.5 新技術の発展

- 合成燃料(e-fuel)の実用化可能性

- 水素技術の進展

- バイオ燃料の技術革新


4.3 2024年から2054年までの予測シナリオ


これらの要因を考慮し、以下の3つのシナリオを設定しました。


4.3.1 ベースシナリオ

このシナリオは、現在の政策や技術トレンドが緩やかに進展すると仮定しています。


- 2034年:180円/L前後

 - 電気自動車の普及が進むものの、ガソリン車も一定数残存

 - 原油価格は緩やかに上昇(80-90ドル/バレル程度)

 - 円相場は1ドル=120-130円程度で推移


- 2044年:200円/L前後

 - 新車販売の半数以上が電気自動車に

 - ガソリン需要の減少により、一部の製油所が閉鎖

 - 原油価格は100ドル/バレル前後に上昇

 - 円相場は1ドル=130-140円程度


- 2054年:220円/L前後

 - ガソリン車の新車販売が極めて限定的に

 - 残存するガソリン車向けに、合成燃料の供給も開始

 - 原油価格は110-120ドル/バレル程度

 - 円相場は1ド- 2054年:220円/L前後

 - ガソリン車の新車販売が極めて限定的に

 - 残存するガソリン車向けに、合成燃料の供給も開始

 - 原油価格は110-120ドル/バレル程度

 - 円相場は1ドル=140-150円程度

 - カーボンプライシングの完全導入により、追加のコスト負担


このベースシナリオでは、脱炭素化政策の進展と電気自動車の普及により、ガソリン需要は徐々に減少します。しかし、原油価格の上昇や円安傾向、さらにはカーボンプライシングの導入により、価格は緩やかに上昇すると予測されます。


ガソリンスタンドの数は大幅に減少し、主に過疎地域や高速道路のサービスエリアなどに限定されるでしょう。一方で、合成燃料の供給が始まることで、クラシックカーの愛好家などの需要に対応する新たな市場が形成される可能性もあります。


4.3.2 高価格シナリオ

このシナリオは、脱炭素化政策が急速に進展し、同時に地政学的リスクが高まる場合を想定しています。


- 2034年:220円/L前後

 - 厳格な環境規制により、ガソリン車への課税が強化

 - 中東情勢の悪化により原油価格が高騰(120-130ドル/バレル)

 - 円相場は1ドル=140-150円まで円安が進行


- 2044年:260円/L前後

 - ガソリン車の新規登録が事実上禁止に

 - 原油生産のピークアウトにより、原油価格が150-160ドル/バレルに

 - 円相場は1ドル=160-170円とさらなる円安

 - カーボンプライシングの強化により、CO2排出量に応じた高額課税


- 2054年:300円/L前後

 - ガソリンの一般向け販売が極めて限定的に

 - 原油価格は180-200ドル/バレルまで高騰

 - 円相場は1ドル=180-190円

 - 合成燃料の供給も限られ、高価格化


このシナリオでは、脱炭素化政策の急速な進展により、ガソリン車への規制が大幅に強化されます。同時に、地政学的リスクや資源枯渇懸念から原油価格が高騰し、円安傾向も相まって、ガソリン価格が急激に上昇します。


電気自動車へのシフトが政策的に強制されるものの、インフラ整備の遅れや高価格化により、移行が円滑に進まない可能性があります。結果として、移動コストの増大が社会問題化する恐れがあります。


4.3.3 低価格シナリオ

このシナリオは、技術革新が急速に進み、エネルギー転換が円滑に行われる場合を想定しています。


- 2034年:150円/L前後

 - 電気自動車の技術革新により、想定以上の普及が進む

 - 原油需要の減少により価格が下落(60-70ドル/バレル)

 - 円相場は1ドル=110-120円程度で安定


- 2044年:130円/L前後

 - ガソリン車の保有台数が大幅に減少

 - 原油価格は50-60ドル/バレル程度まで下落

 - 円相場は1ドル=100-110円と円高傾向

 - 合成燃料の技術革新により、製造コストが大幅に低下


- 2054年:110円/L前後

 - ガソリン車は希少価値化し、趣味・コレクターズアイテムとして存続

 - 原油価格は40-50ドル/バレル程度で推移

 - 円相場は1ドル=90-100円

 - 合成燃料が主流となり、従来のガソリンは特殊用途化


このシナリオでは、電気自動車の技術革新と普及が想定以上に進展し、ガソリン需要が急速に減少します。その結果、原油価格が下落し、円高傾向も相まって、ガソリン価格は大幅に下落します。


同時に、合成燃料の技術革新により、カーボンニュートラルな液体燃料の供給が可能となり、残存するガソリン車や特殊用途車両向けに、比較的安価な価格で供給されるようになります。


4.4 シナリオ別の社会的影響分析


各シナリオが実現した場合、社会にどのような影響を与えるか、以下に詳細に分析します。


4.4.1 ベースシナリオの社会的影響

- 自動車業界の構造変化

 - 電気自動車メーカーの台頭

 - 従来の自動車部品メーカーの淘汰と事業転換

- エネルギー供給構造の変化

 - ガソリンスタンドの減少と充電ステーションの増加

 - 石油精製業の縮小と再編

- 消費者行動の変化

 - 車の所有形態の変化(カーシェアリングの普及)

 - 長距離移動手段の見直し(高速鉄道の利用増加)


4.4.2 高価格シナリオの社会的影響

- 経済的格差の拡大

 - 高価格な電気自動車へのアクセスが限られる層の出現

 - 地方と都市部の移動コスト格差の拡大

- 産業構造の急激な変化

 - ガソリン関連産業の急速な縮小による雇用問題

 - 新エネルギー産業への投資集中

- ライフスタイルの変革

 - 近距離移動中心の生活様式への移行

 - テレワークのさらなる普及


4.4.3 低価格シナリオの社会的影響

- エネルギー産業の大規模な転換

 - 石油メジャーの事業多角化(再生可能エネルギー、合成燃料への注力)

 - 電力業界の競争激化と新規参入の増加

- モビリティの多様化

 - 電気自動車、燃料電池車、合成燃料車の共存

 - パーソナルモビリティの普及拡大

- 国際競争力への影響

 - エネルギーコストの低下による製造業の競争力向上

 - 新エネルギー技術の輸出産業化


4.5 予測の不確実性と留意点


これらの予測には以下のような不確実性があることに留意が必要です:


1. 技術革新の予測困難性

  - バッテリー技術や合成燃料の進歩速度は予測が難しい

2. 政治的要因

  - 環境政策の変更や国際情勢の急変により、予測が大きく外れる可能性

3. 自然災害やパンデミック

  - 予期せぬ事態により、エネルギー需給が急変する可能性

4. 消費者の選好変化

  - 環境意識の高まりや価値観の変化により、予想外の行動変容が起こる可能性

5. 代替技術の出現

  - 現時点で予測不可能な新技術が登場し、エネルギー市場を一変させる可能性


これらの不確実性を考慮し、定期的に予測を見直し、最新のデータと動向を反映させることが重要です。


5. 政府補助金の影響シミュレーション


ここでは、政府補助金がガソリン価格に与える影響について、詳細なシミュレーションを行います。


5.1 補助金の概要と前提条件


このシミュレーションでは、以下の前提条件を設定します:


1. 補助金額:1リットルあたり20円

2. 補助金の財源:炭素税の導入による税収

3. 補助金の期間:2025年から2035年までの10年間

4. 補助金の対象:全てのガソリン販売


5.2 補助金ありのシナリオ(ベースシナリオ比)


5.2.1 価格推移

- 2034年:160円/L前後(-20円)

- 2044年:180円/L前後(-20円)

- 2054年:200円/L前後(-20円)


5.2.2 補助金の影響分析

1. 消費者への直接的影響

  - 家計の燃料費負担軽減(年間約2万円/世帯)

  - 物流コストの抑制による物価安定化


2. 産業への影響

  - ガソリン需要の下げ止まり

  - ガソリンスタンドの経営安定化

  - 自動車メーカーの電動化移行の鈍化


3. 環境への影響

  - CO2排出量削減目標の達成遅延

  - 大気汚染物質排出量の高止まり


4. 財政への影響

  - 年間約1兆円の財政支出増加

  - 炭素税導入による新たな税収(相殺効果)


5. 社会的影響

  - 低所得者層の移動手段確保

  - 地方部と都市部の格差是正


5.3 補助金の段階的廃止シナリオ


より現実的な政策オプションとして、補助金の段階的廃止シナリオを検討します。


5.3.1 価格推移

- 2034年:170円/L前後(-10円)

- 2044年:195円/L前後(-5円)

- 2054年:220円/L前後(変化なし)


5.3.2 段階的廃止の影響分析

1. 消費者の適応

  - 緩やかな価格上昇により、消費者の行動変容を促進

  - 電気自動車への買い替えや公共交通機関の利用増加


2. 産業の構造転換

  - ガソリン関連産業の緩やかな縮小と事業転換

  - 電気自動車関連産業の成長加速


3. 環境目標との整合性

  - CO2排出量削減目標との両立が可能に

  - 大気質の改善が段階的に進行


4. 財政への影響

  - 財政負担の漸減的軽減

  - 炭素税収の他の環境対策への再配分が可能に


5. 技術革新の促進

  - 代替エネルギー技術への投資インセンティブの維持

  - 合成燃料の研究開発の加速


5.4 補助金政策の課題と展望


補助金政策には以下のような課題があり、慎重な検討が必要です:


1. モラルハザード

  - 補助金依存による自助努力の減退

  - 電気自動車への移行遅延


2. 財源の持続可能性

  - 長期的な財政負担の可能性

  - 他の重要施策への予算配分への影響


3. 国際競争力への影響

  - エネルギー効率の低い産業構造の温存

  - 国際的な環境規制への適応遅れ


4. 政策の一貫性

  - 脱炭素化政策との整合性確保

  - 長期的なエネルギー政策との調和


5. 公平性の問題

  - ガソリン車所有者と非所有者間の不公平

  - 地域間格差の固定化


これらの課題を踏まえ、今後の補助金政策は以下のような方向性が考えられます:


1. 目的の明確化

  - 単なる価格抑制ではなく、エネルギー転換の促進を主目的とする


2. 対象の絞り込み

  - 低所得者層や特定地域など、真に必要な層への重点的支援


3. 時限的・漸減的な設計

  - 明確な期限設定と段階的な減額スケジュールの提示


4. 代替手段への誘導

  - 電気自動車購入補助や公共交通機関の利用促進との組み合わせ


5. フレキシブルな制度設計

  - 国際情勢や技術進歩に応じて柔軟に調整可能な仕組み作り


6. 透明性の確保

  - 補助金の効果と影響の定期的な検証と公表


6. 総合考察と政策提言


これまでの分析を踏まえ、日本のガソリン価格の将来と関連するエネルギー政策について、総合的な考察と政策提言を行います。


6.1 ガソリン価格の長期的トレンド


過去30年間の分析と今後30年間の予測を総合すると、以下のような長期的トレンドが浮かび上がります:


1. 価格の上昇傾向

  - 環境規制の強化や原油生産のピークアウトにより、長期的には上昇傾向が続く可能性が高い

  - ただし、電気自動車の普及により需要が減少し、価格上昇が緩和される可能性もある


2. 価格変動の増大

  - 地政学的リスクや気候変動の影響により、短期的な価格変動が増大する可能性

  - エネルギー源の多様化により、長期的には変動が緩和される可能性


3. 地域間格差の拡大

  - 都市部と地方部で、ガソリン価格や代替エネルギーへのアクセスに格差が生じる可能性

  - 地域特性に応じたエネルギー政策の必要性が高まる


4. 新技術による市場構造の変化

  - 合成燃料や新型バッテリーなど、新技術の登場により市場構造が大きく変化する可能性

  - 従来の石油産業からエネルギーサービス産業への転換が進む


6.2 政策提言


これらのトレンドを踏まえ、以下の政策提言を行います:


6.2.1 包括的なエネルギー転換戦略の策定

1. 長期的なロードマップの作成

  - 2050年カーボンニュートラル達成に向けた具体的なマイルストーンの設定

  - 各エネルギー源の構成比率の段階的な目標設定


2. セクター横断的なアプローチ

  - 運輸部門だけでなく、電力、産業、家庭部門を含めた総合的な戦略の策定

  - 省庁間の連携強化と統一的な政策実施体制の構築


3. 国際協調の推進

  - エネルギー安全保障の観点から、国際的な協力体制の構築

  - 技術開発や規制の標準化における国際的なリーダーシップの発揮


6.2.2 技術革新の促進と産業構造の転換支援

1. 研究開発投資の拡大

  - 次世代バッテリー、合成燃料、水素技術などへの重点的な投資

  - 産学官連携の強化と国際的な研究ネットワークの構築


2. 産業構造転換の支援

  - ガソリン関連産業から新エネルギー産業への円滑な移行支援

  - 労働者の再教育・再訓練プログラムの充実


3. スタートアップ支援の強化

  - エネルギー分野のイノベーションを促進するためのインキュベーション支援

  - リスクマネーの供給促進のための制度整備


6.2.3 社会的公平性の確保

1. エネルギー貧困対策

  - 低所得者層や地方居住者向けの移動手段確保支援

  - エネルギー効率の高い住宅・設備への更新支援


2. 地域特性に応じた支援策

  - 都市部と地方部で異なるアプローチの採用

  - 地方自治体の裁量権拡大と財政支援の強化


3. 公正な移行の実現

  - 産業構造の変化に伴う雇用への影響を最小化する施策の実施

  - 新たなスキル獲得のための教育・訓練機会の提供


6.2.4 柔軟な価格政策の導入

1. 動的な税制設計

  - 原油価格の変動に応じて税率を自動調整する仕組みの導入

  - 環境負荷に応じた課税の強化(カーボンプライシングの本格導入)


2. 時限的な補助金制度の活用

  - 急激な価格上昇時の緊急措置としての補助金制度の整備

  - 明確な出口戦略を伴う設計


3. 価格シグナルの活用

  - 消費者の行動変容を促す適切な価格水準の設定

  - 透明性の高い価格形成メカニズムの構築


6.2.5 インフラ整備と都市計画の見直し

1. 次世代モビリティインフラの整備

  - 電気自動車充電ステーションの全国展開

  - 水素ステーションのネットワーク構築


2. 公共交通機関の強化

  - 地方部における公共交通の維持・強化

  - MaaSの導入促進によるシームレスな移動環境の実現


3. コンパクトシティの推進

  - 歩いて暮らせるまちづくりの促進

  - エネルギー効率の高い都市構造への転換


6.3 今後の研究課題


本研究を踏まえ、以下の点について更なる研究が必要だと考えられます:


1. 新技術の社会的受容性

  - 電気自動車や自動運転技術の普及に影響を与える社会心理学的要因の分析

  - 技術の受容を促進するコミュニケーション戦略の開発


2. エネルギー転換の経済的影響

  - GDPや雇用への影響の定量的分析

  - 国際競争力への影響評価


3. 地域別のエネルギー戦略

  - 地域の特性(気候、産業構造、人口動態等)を考慮したエネルギー戦略の最適化

  - 地域エネルギー自給率向上のための方策研究


4. リスク管理と強靭性

  - 気候変動や地政学的リスクに対するエネルギーシステムの強靭性評価

  - 多様なエネルギー源のポートフォリオ最適化


5. 国際協調メカニズムの設計

  - 国境を越えたカーボンプライシングの制度設計

  - 技術移転と知的財産権保護のバランスに関する研究


7. 結論


日本のガソリン価格は、過去30年間で大きな変動を経験し、今後30年間でさらなる構造的変化が予想されます。脱炭素化の潮流、技術革新、地政学的要因など、複雑な要因が絡み合う中で、単純な価格予測を超えた包括的なアプローチが求められています。


本研究で提示した複数のシナリオは、将来の不確実性を示すと同時に、政策立案者や企業、そして個々の市民が直面する選択肢を明らかにしています。ガソリン価格の問題は、単なるエネルギーコストの問題ではなく、社会の在り方や生活様式、さらには地球環境との関わり方を問い直す契機となっています。


今後、日本がエネルギー転換を成功させ、持続可能な社会を実現するためには、技術革新の推進、公平性の確保、国際協調の強化など、多面的なアプローチが不可欠です。同時に、変化に柔軟に対応できる政策枠組みの構築と、市民の主体的な参加を促す社会システムの設計が重要となるでしょう。


ガソリン価格の将来は不確実ですが、それは同時に新たな可能性に満ちています。この分析が、日本のエネルギー政策の議論を深め、より良い未来の選択につながることを期待しています。


## 参考文献


1. 資源エネルギー庁 (2024) 「石油製品価格調査」

2. 経済産業省 (2023) 「長期エネルギー需給見通し」

3. 国際エネルギー機関 (2024) 「世界エネルギー展望」

4. 環境省 (2023) 「カーボンプライシングの在り方に関する検討会報告書」

5. 日本自動車工業会 (2024) 「次世代自動車普及戦略」

6. 国土交通省 (2023) 「自動車燃料消費量統計年報」

7. Bloomberg New Energy Finance (2024) "Electric Vehicle Outlook"

8. McKinsey & Company (2023) "Global Energy Perspective"

9. World Bank (2024) "State and Trends of Carbon Pricing"

10. IPCC (2023) "Sixth Assessment Report: Mitigation of Climate Change"

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